すし桶はぜひ持っておいたほうがいいと思う

すし桶(寿司桶)は飯台とか飯切(はんぎり)ともいいます。酢飯を混ぜる木の道具であり、盛り付けてそのままテーブルに出すこともあり大皿のように使う場合もあります。

2月頃になると寿司桶の話をしながらそわそわするのは、子供の頃、ひな祭りにちらし寿司を食べていたことと、この時期はお祝い事が多くなり使う機会が多かったからでしょう。

ぜひすし桶でおいしくお寿司を作り、そして食卓を楽しくしてほしいと思います。

私も、昔、うちわで酢飯をあおいでお手伝いしたことを覚えていますし、いまでも実家に帰ると寿司桶がでてくると嬉しいものです。

飯台(すし桶)の良さって?

昔ながらの木の飯台は、できたての酢飯の水分を調節しながら冷ます道具です。

炊き立てのご飯をすし酢を混ぜて木肌で手早く冷ますことで、艶がでておいしい酢飯になります。短時間で水蒸気を飛ばした酢飯は長く保存ができるようになるのです。

ステンレスやガラスのボウルを使うと、ボウルがご飯の温度に影響されて温まってしまうのでべちょっと仕上がってしまいます。またご飯と容器の接地面ではごはんの水蒸気が逃げる場を失い、さらにべとついてしまいます。

木の飯台なら、常に呼吸しながら水分を調節します。手早く冷ますことで酢飯が傷みにくくなるのです。温かみのある木の飯台をぜひ次の世代につなげていただきたいと思います。

よく「すし桶は大きいほうがいい」といわれるのは、混ぜるときにご飯がつぶれにくいことと、冷める時間が早いからです。確かに短時間で冷ますのは酢飯はよいことですが、大きいのを買いすぎると邪魔になる場合もありますので、普段使いになさるなら家族の人数に合わせたものをもつほうがよいでしょう。

すし桶のもうひとつの側面

すし桶なんて要らない、邪魔になるっていう人もいるでしょう。寿司屋のほうがお寿司は美味しい、確かにそうです。
95歳の桧山タミ先生が著書「みらいおにぎり(文藝春秋)」でこんな一節があります。

「わが家のお祝い事がある日のごはんは、いつもちらしずしでした。季節の野菜を入れて、ときには旬の魚ものせて。家族みんなで食べるお母さんのちらしずしはわたしの大好物。料理教室でわたしも時々ちらしずしを作りますが、なかなかお母さんのようの上手にはつくれません。なぜお母さんのちらしずしはあんなにおいしかったんでしょうね。(中略)

わたしのお母さんはもう50年前に亡くなりました。50年もたったのに、わたしは今でもお母さんのつくったごはんがたべたくなります。(中略)

みんなで大皿を囲んで食べたあのちらしずしは、兄がいつもわたしの分を取り分けてくれました。にぎやかな食卓と、お母さんが家族みんなのことを考えてつくってくれたごはんの記憶は、今でもわたしの心の財産です。」

90年前の先生の記憶です。すし桶が美味しくなると桧山先生のお母さんが分かっていて、先生もそれを引き継いで、おいしくなる道具で家族や生徒に食べさせたい、そして伝えたいと思っている。それは、鮨屋がおいしいとか、寿司桶が場所とるかた邪魔なこととは別の話なのだとわかるでしょう。

必ず美味しくできます。ぜひこの道具を使い続けてほしいと、私は思うのです。