木の考察~道具は木によって違うの?~
木によって道具は違う?
最近は、まな板、おひつ、すし桶、せいろなど、木の道具を見直され、若い型でも使われる方が多くなりました。
お店では、「木の種類、産地、部位によって何か違うんですか?」と聞かれます。
ひとことで言うと、適材は長持ちし、歪みが少ない、あるいは歪みにくい。
というのは間違いないでしょう。
木材の違い
例えば、杉。
日本で植樹林としても面積が多く、樹齢も比較的短いです(長いのもある)その分、柔らかく、台所道具としては反りやすいという欠点もあります。 水分を吸うのでまな板とはにはあまり向いていませんね。
イチョウは、硬くてかびにくく、油分を含むためまな板や木のせいろに向いています。杉よりお高いです。ただ、匂いがきついものもあり、すし桶などには避けられたり、まな板としても部位によっては繊細な生ものなどににおい移りがあるので避けられます。
ひのきは、抗菌作用が強く、樹齢も長いものが多いので歪みにくい点で、まな板やセイロにも向いています。
さわらは、樹齢もある程度長いので歪みが少なく、匂いも少なく水に強いので、水樽、すし桶、お櫃向きです。
ひばも、いろいろ向いています。匂いが結構あるのですが、その分、かびにくく、強いです。
昔から、それぞれにふさわしい木材があります。
木曽ひのきについて
樹齢200年以上と謳えるひのきが流通しているのは、信州の木曽だけ。木目が緻密(きわめて細かくなめらか)なので、観察するとわかります。
歴史的な話ですが、木曽のひのきが優秀な木材であるは理由があります。
豊臣秀吉が大野城や伏見城、神社仏閣の材用確保のために木曽を管理していたのです。1615年に権利は尾張藩に移りましたが、尾張藩は資源枯渇の危機を感じ、「ひのき一本首ひとつ、枝一本腕に一本」というほどに、重い禁伐令をだしたのです。その結果、庶民が勝手に切ることがなくなり、高齢樹の木が成育してきたわけです。
木曽ひのきは樹齢が長く緻密な柾目があるため、たとえ1枚板でなく、糸柾(いとまさ・糸のように細い木目が平行に現れている物のことで、とても美しい木目が特徴)を揃えて接ぎ板でまな板を作ったとしても、とてもよい道具として使えます。木曽は冬が寒く成育が遅い為、木目の感覚がつまっているの、より良材といえます。
高知県などでも四万十ひのきのまな板が有名ですが、樹齢は70~80年材です。木目を比べると一目瞭然です。
木目が粗いと、硬い冬目と柔らかい夏目の感覚が広くなり、包丁の刃あたりの均一感が損なわれます。
価格の違い
木曽ひのきの樹齢200年材を使うと仮に200万/㎡だとすると、植林の木材50年は8万/㎡にも満たないと、聞いたことがあります。材料だけで30倍~60倍の差があるようです。(専門家に聞いた話)流通の方法の違いもありますが。
道の駅などで安いひのきのまな板を売ってあり、それはそれでよいとは思うのですが、安く買おうと思えば、樹齢が若く、板目の一枚板、間伐材(40~50年)です。キチパラにもまな板削りに持ってこられますが、大きく沿っているのは、板目で、木目が広くてまばらなものがほとんどです。
よい木材を使うと価格が上がってしまうのは、そういう理由があります。
木のせいろではどれがいい?
杉は歪みやすく、ひのきゆがみにくい。いちょうはその中央値という感じです。
味に変化はなく、匂いにはやや違いがあります。また、かびにくいのもひのきで、耐久性が高いのもひのき。
また安価な杉は海外のものが多く、薬剤が使われることが多く、私はちょっと心配してます。
キッチンパラダイスの木のまな板は、いちょうやそれに似た木を使い、気を付けて使えば長持ちします。桧の1/3以下の価格で購入できます。海外で作られていますが、大丈夫です。
まな板ではいちょうとひのき、どっち?
せいろはひのきの方が軍配が上がりますが、まな板はどちらがいいのでしょうか。
答えは、木による、です。
福井県産のいちょうのメス材は大変すばらしいと言われます。メス材(雌木)は実がなるほうの木で、いちょうとして適度な油分があり水はけがよく、適度な硬さがあるだけでなく、抗菌力に優れているのです。ただ匂いが強すぎて、「むり~」という人もいるかもですね。匂いはあってもカビは生えにくいと思います。和食の店ではこの匂いで敬遠されます。
ひのきも木曽ひのきのように良材であれば、いちょうにも負けない良さがあります。接ぎ木のまな板だとしても目がつまっていてとても高級で歪みがすくなく、刃当たりもいいです。
道具として、1枚板がいいか、継いで作ったまな板がいいか、あるいはいちょうとひのきはどちらがいいかというのは、一概には言えないと思います。
すし桶とおひつにはなぜさわら?
すし桶、おひつは、ご飯をいれるのでにおい移りがしにくいものが好まれます。
また、水分をよく吸ってくれるほうが、酢飯を混ぜるときやご飯を保存するのによいとされます。酸にも強くないといけません。
さわらは昔から水桶に使われていましたが、これは水をいれても歪みが少ないからです。それですし桶やお櫃にも適材だといわれています。木曽さわらはひのきと同様、目がそろっていて歪みがすくなく最高の木材といえます。
桧山タミ先生(98)も長年木曽ひのきのすし桶をお使いでした。おそらく70年を超えると思います。
木材に適材適所があるのがよくわかります。